前回の話

俺は、電気の消えたままの部屋を見つめながら、今までの人生で一番と言ってもいいくらいに動揺していた。あやみは、彼に対してはっきりと抱いて欲しいと言っていた。
あやみがみーやんと呼ぶ男性との関係は、俺に説明した内容とはかなり違うみたいだ。彼が告白したのではなく、あやみの方が告白したというのが実際のようだ。

俺は、あやみの携帯に何度も電話をかけ続けながら、焦燥感で身が焦げそうになっている。どうして意地を張ってしまったのだろう? そんな後悔で泣けてきそうになる。
あやみは、本当に俺に惚れてくれていると思う。何をするにも俺を優先してくれてきた。友達と映画館に入ったタイミングで俺からメッセージが届き、映画をキャンセルして俺に会いに来てくれたこともある。
本当に、いつでも俺の事を一番に考えてくれていたと思う。出会った頃は、あやみはコテコテの関西弁だった。俺は、CGのような美少女が関西弁をしゃべるギャップが好きだったが、あやみは俺に合わせて標準語をしゃべるようになった。彼氏に合わせて何でもする女性は、重いと言われる事もあると思うが、俺はむしろ嬉しいと思っていた。

俺は、泣きそうな気持ちのまま、もう一度様子をうかがおうとマンションに近づいた。でも、ちょうど人が出てきてしまった。俺は、慌てて素通りをした。
その後も、何度か近づこうとしたが、その度に人が帰ってきたり、逆に出て行ったりして近づけない。もう、どうしたら良いのかわからなくなってパニックになりそうだったが、そのタイミングであやみが出てきた。

俺は、予想外のあやみの登場に慌てて隠れた。あれから、30分程度しか経っていないと思う。結局、やっぱりセックスはしなかったのではないか? そんな期待をした。

俺は、あやみの後をつけた。あやみは、急ぎ足で歩きながらスマホを取り出す。そして、少し操作をした後、画面を見て驚いたように立ち止まった。
慌てて何か操作をすると、俺のスマホが振動した。俺は、慌てて路地に入りスマホを操作して電話に出た。
『まさくん、ゴメンね! なんか、勝手に電源切れてたみたい』
開口一番、すごく早口で言うあやみ。俺は、今どこにいるのか聞いた。すると、あやみは素直に今いる場所を伝えてくる。みーやんと別れて、帰るところだと言う。確かに、嘘ではない。俺は、気をつけて帰ってきてと言った。

そして、電話が切れるとすぐに路地から出た。でも、あやみは見えなくなっていた。俺は、慌てて駅を目指した。そして、電車に乗って家路を急いだ。電車の中で、あやみから夕ご飯の事でメッセージが来た。俺は、おなかがすいている事を伝えた。
実際は、動揺でお腹などすいていなかったが、買い物の時間で先に帰宅出来ると思ったからだ。

そして、駅から走って家に戻ると、あやみはまだ帰っていなかった。俺は、ホッとしながら呼吸を整えていた。すると、すぐにあやみが帰ってきた。呼吸がかなり乱れていて、走って帰ってきたのがわかる。
『ごめんね、遅くなっちゃた! すぐ用意するからね!』
あやみは、慌てている。でも、見た限りではおかしな部分はない。服装も乱れていないし、表情も慌てているだけで隠し事をしているような感じではない。

俺は、慌ててキッチンに行こうとする彼女を抱き寄せ、キスをした。一瞬慌てる彼女。でも、俺が強引に舌を差し込んでかき混ぜると、一気に脱力した。そして、嬉しそうに舌を絡めてきてくれる。
『どうしたの? もしかして、ご飯より先に私?』
いたずらっぽく言うあやみ。何というか、妙に色っぽく感じてしまった。俺は、もしかしてあの男とキスをしてきたんじゃないかと想像してしまい、激しい嫉妬に駆られながらキスを続ける。

そして、しばらくキスを続けた後、今日はどうだったのかと質問した。
『どうだったって? もしかして、心配してくれるの? 焼き餅?』
あやみは、本当に嬉しそうな顔で言う。俺は、彼女に愛されているという実感を持ちながらも、さっきの事を思い出してモヤモヤしてしまう。
でも、あやみに無邪気にそんな風に言われると、俺の中のあまのじゃくが余計な事をし始める。
「別に心配してないよ。意外に早かったからさ。朝帰りするかと思ってたから、拍子抜けしただけだよ」
俺は、あやみの表情が曇るのを目の当たりにしながらも、そんな事を言ってしまった。
『……心配してなかったの? 男の人と二人で会ってるのに?』
あやみは、悲しそうな顔をする。俺は、さすがにマズいと思い、あやみを信用してるから心配なんてしてないんだよと説明をした。

『そうなんだ。ありがとう。じゃあ、ご飯作っちゃうね。ちょっと待ってて』
あやみは、無理に笑いながら言う。俺は、本当は死ぬほど心配していたと言えばいいのにと思いながらも、何も言えずにソファに座った。あやみは、手際よく料理をする。
惣菜もいくつか買ったようで、あっという間に夕ご飯が準備されていく。
「どこで会ってたの?」
俺は、そんな質問をした。すると、あやみは素直にあの店の事を言った。そして、昔話が盛り上がった事を話し始める。俺は、プリクラのキス写真の事を聞いた。
『……ゴメンね。まさくんが心配してくれないから……。怒ってる?』
あやみは、ものすごく申し訳なさそうな顔で言う。やっぱり、あれは本当にキスをしてしまったようだ。俺は、キスも浮気だよね? と、嫉妬に任せて言ってみた。すると、あやみは涙目になりながら必死で謝ってくる。俺は、こんなに謝るくらいなら、最初からしなければ良いのにと思ってしまった。

俺は、別に怒ってないと言った。そして、キスだけだったのかと質問した。
『うん。それだけだよ』
あやみは、すぐに言い切った。俺は、それが本当なのかどうなのかわからないだけに、リアクションに困ってしまった。でも、嫉妬心や怒りのせいか、本当はセックスしたんじゃないのかと聞いてしまった。
『してないよ! するわけないじゃん! どうしてそんな事言うの?』
と、軽く逆ギレされてしまった。結局、最後までしたのかはわからないが、少なくともしようとしていたのは間違いないはずだ。完全に逆ギレだと思う。俺は、それでもゴメンと謝った。理不尽だなとは思うが、これも惚れた弱みだと思う。

そして、なんとなく気まずいまま食事を終え、風呂に入ってベッドに潜り込む。少しすると、あやみもベッドに潜り込んできた。そのまま、俺に抱きつくあやみ。
『怒ってる? もう、二度と会わないから』
あやみは、さっきの逆ギレが嘘のようにしおらしく言う。俺は、
「別に、異性として見てないんでしょ? それなら、たまに遊んだら?」
と、そんな風に言った。あやみは、
『イヤじゃないの? 心配じゃないの?』
と、言ってきた。俺は、あやみを信じてるからと答えた。

俺は、結局あやみが浮気をしたのかどうかわからなかった。でも、きっとしていないだろうと判断した。危うい場面だったが、結局思いとどまってくれたと信じた。

あのことがあって以来、あやみはさらに俺に甘えてくるようになった。そして、俺も嫉妬心からか、あやみへの執着心が強くなった。セックスするよりも、イチャイチャしたりまったりしたりする事が好きだった俺が、頻繁に彼女を求めるようになった。
あやみは、外国の血がそうさせるのかはわからないが、愛情表現としてセックスを求めがちだった。なので、俺が頻繁にセックスを求めるようになり、本当に幸せそうになった。

俺は、より幸せな日々になったなと思いながらも、あの時の事を未だに疑っていた。もしかして、やっぱりセックスをしたんじゃないのか? 大好きだったみーやんと、濃厚なセックスをしたんじゃないのか? と、疑ってしまっていた。

俺は、結局我慢しきれなくなり、みーやんの部屋を訪ねてしまった。ドアが開き、驚いた顔になる彼。俺は、挨拶をして話があると言った。すると、俺が何か言う前に、みーやんは土下座して謝り始めた。

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